甲子園の思い出

 平成元年7月29日の記事(福井新聞より) 福商本領 投打スキなし 近岡ノーヒットノーラン

福商本領投打スキなし
【福商本領 投打スキなし 近岡ノーヒットノーラン 気迫114球12三振奪う 北陸鈴木力投むなし】
【評】福商・近岡の熱投に尽きる。決勝では初のノーヒットノーランの快記録。12三振を奪う堂々とした投球で北陸を封じた。打線も右狙いの確実な攻撃で三回に先行、六回にも3安打を集めて加点し、四年連続十回目の甲子園へ突っ走った。
近岡は初回からしっかりと投げ込んだ。制球良く内角を突く直球、外へのカーブ、スライダー。五回までは先頭打者を三振に仕留め自分でペースを盛り立てた。波に乗り、気合の入った114球。五、七回には三者三振に切って取り絶好調さを示した。許したランナーは3四球と遊撃手失策の四人だけ。全くつけ入るスキを与えなかった。
打線も確実に点を取りに行った。鈴木に対して完全な右狙い。一回は点につながらなかったが先頭水町が二直、野坂が中飛、西村右前打、近岡右飛といずれも中堅から右へ鋭い打球。鈴木を早い回でとらえそうな気配があった。
さらに六回には青柳が中前打、滝波が送り、渡辺の高い内野フライが風で押し戻されて投手後方に落ちる安打で一死一、二塁。ここでまた松本が送った後、水町の遊撃内野安打で2点目。手堅い攻めで貴重な点を追加した。
北陸は球威十分の近岡を攻めるにはあまりにも振りが大きすぎた。もう少しコンパクトなスイングでミートする打法に徹したかった。また鈴木も本来のボールのキレを欠き、ランナーを背負って投げにくそうな場面が続いた。
福商は北野監督の指導が行き渡り、また一段とたくましさを増した。球史に残る好試合を演じ、ち密でどっしりとした展開。夏の甲子園での活躍に期待がかかる。
【北野監督】
最後まで油断の出来ない試合だった。昨夏のうちの逆転劇を北陸にやられるかとヒヤヒヤした。残塁が多いのが課題として残ったが、選手は本当によくやってくれた。甲子園でもチャレンジする精神は忘れない。
【松倉主将】
九回3アウトを取るまで気が抜けなかった。優勝、それもノーヒットノーランで甲子園行きを勝ち取れたので、最高の気分。近岡は本当に頑張った。

 平成元年7月29日の記事(福井新聞より) 金字塔「初めから狙った」

近岡ノーヒットノーラン
【金字塔「初めから狙った」】
決勝で素晴らしい記録が生まれた。福商近岡のノーヒットノーラン。夏の大会ではこれまで五回(うち2試合は完全試合)達成されているが、決勝では初。近岡にとってもはじめての金字塔となった。
それにしても何という自信だろう。近岡は試合後「初めから狙っていたんです」と、答えた。
北陸鈴木との投げあいはこれまで二回あった。昨秋の県大会決勝と北信越大会決勝だが、近岡は二回とも敗れていた。それだけにこの日の決勝では燃えた、という。
低めに集めることだけを考えて臨んだ初回。直球が伸びた。カーブが切れた。初回を抑え「きょうは行ける。狙おうと思った」そうだ。"女房役"の主将松倉は、中盤まで近岡が無安打なことに気付かなかった。だが五回にベンチで近岡から「ノーヒットノーラン、狙おうか」と聞かされ、意識し始めたという。
五回、七回には三者を三振に取り、ナインからも「狙え、やってみろ」と励まされた近岡だが、九回に一瞬ヒヤリとした。成山の遊ゴロを悪送球で出塁。しかし近岡には「Eランプがつくまでが、とてつもなく長く、不安だった」そうだ。 試合では114球を投げ、12個の三振を奪った。出したランナーは四球の三人と最終回の成山だけ。
この日のヒーロー、近岡に、北野監督は「近岡は力投型。力の限り投げるので、これまで連投が難しいときもあったが、今大会では力の抜き方を覚えたのが、今日の結果につながったと思う。高めに球が浮いて左バッターに打ち込まれたセンバツでの経験を逆に糧にした努力が実った」とほぼ満点を与えた。
気持を聞かれて答えた「うれしい」の一言が、近岡の気持を素直に表していた。

 平成元年8月12日の記事(福井新聞より) 完全燃焼 炎の猛攻 福商真価ここぞに快音 近岡-金城で盛岡三完封

完全燃焼炎の猛攻
【完全燃焼 炎の猛攻 福商真価ここぞに快音 近岡-金城で盛岡三完封】
【評】福井商の炎の打線が中盤一気にさく裂した。今大会最多の18安打の猛攻で大量10点を挙げて、近岡を援護、盛岡三に快勝した。福井商は昨夏、今春に続き2回戦へコマを進めた。
先行の福井商は三回、左翼越えの二塁打を放った青柳を渡辺が送った後、松本の中犠飛で青柳が余裕を持って生還し先取点を挙げた。
勢いづいた福井商の炎の打線が爆発。先頭の野阪の左前打、西村の内野安打で迎えた一死一、二塁の好機に、県大会で6割の打率を誇った主将松倉が、平野の真ん中高めの直球を勢い良くはじき返した。これが中越えの二塁打となり野阪が生還。内野への返球がそれる間に、三進していた西村も本塁を駆け抜け、松倉は三塁へ。さらに三上が一、二塁間を破るヒットを打ち、松倉もかえってこの回3点をものにした。
勢いづいた福井商打線はとどまることを知らない。五回には野阪が持ち前のパワーで左越えの二塁打を放ち、続く西村も左前へ渋いヒット。有利な試合展開にも攻撃の手を緩めない北野監督はここでダブルスチールのサインを出した。二死一、三塁で迎えた松倉の2球目に、西村がスルスルと二塁へ。一、二塁間に西村が故意に挟まれている間に野阪がホームを突く頭脳的なプレーで5点目。二盗に成功した西村は、松倉の右前打で一気に生還した。
六回にも青柳、松本の2本の二塁打、野阪の中前打などで2点、最終回にも四球の花山、左前打の三上、青柳が返してダメ押しの2点を入れた。
近岡は変化球の制球にやや苦しんだが大量点に守られ余裕の投球。直球で押しまくる熱投で八回までを9奪三振、4安打に抑え込み、最終回を金城が三人をピシャリと抑えた。
【北野監督】
気迫の勝利。受け身にならなかったのがよかった。十五人全員がプレーできて満足。近岡の調子が今一つだったが、後はバントもヒットもすべて思い通りに進んだ。会心の出来だった。
【松倉主将】
気迫で負けるな、苦しくなったら左袖の炎のマークを見ろ、とみんなで誓い合ったかいがあった。近岡は変化球が決まらなかった。しかし2回戦では、1勝に甘んじることなく、初戦の意気込みで頑張りたい。

 平成元年8月12日の記事(福井新聞より) 余裕の近岡「楽しんだ」 無安打無得点「もう一度」

余裕の近岡
【余裕の近岡「楽しんだ」 無安打無得点「もう一度」】
「カーブが決まらず、直球も走らなかった。力み過ぎたかなあ。でもみんなが見ていたので、楽しんで投げられた」八回をわずか4安打に抑え込んだ福井商の近岡は大粒の汗をぬぐおうともせず、四度目の甲子園マウンドの感想を余裕たっぷりに答えた。
県大会決勝で見せたノーヒットノーランを再び、との期待がかかる中、近岡は力んだ。「抑えてやろう」という気だけが走った。コントロールに苦しみ、2四球1死球を与えた。三回、平野に浴びた右前打、六回の石上の中越え二塁打などは「ボールが高めにいってしまった」と苦笑い。
しかしマウンド上では焦った様子はみじんもなかった。
「2回戦では、もう一回、ノーヒットノーランを狙いますよ。上宮や仙台育英とやってみたい」と、"ノーヒットノーラン男"は白い歯をみせて言い切った。

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