甲子園の思い出

 平成8年8月18日の記事(福井新聞より) 見たか不死鳥の逆襲 福商耐えて終回連打

見たか不死鳥の逆襲
【見たか不死鳥の逆襲 福商耐えて終回連打】
【評】福井商が最終回に鮮やかな逆転劇を見せた。4長短打に2犠打を絡ませる集中力で6点を奪い、横浜をねじ伏せた。夏としては同校初のベスト8に進出した。
2点を追う福井商は九回、河合が中前打、代打・中田が四球で無死一、二塁。清水の投前バントを横浜・松井が間に合わない三塁に悪送球し、二走・河合が返り1点差に詰め寄った。
竹野三振の一死後、浅野が左中間を深々と破る三塁打を放ち二者が生還し逆転した。塚田が左前に弾き返した後、亀谷の犠打が敵失を誘い一、二塁。八回に代打で適時打を放った鈴木が今度は右前への適時打、続く中川の投ゴロが併殺崩れとなる間に亀谷が、本塁を陥れた。土壇場で打線が爆発。打者十人で一挙6点を奪う猛攻だった。
一方、先発・亀谷は初回に自らの野選などで3点、三回にも長短打で追加点を許した。速球に本来の伸びがなく苦しい投球。しかし四回以降は逆に直球を見せ球にし、カーブ、スライダーを散らす粘りのピッチング。辛抱強く待ったのが終盤の大逆転劇につながった。
【北野尚文監督】
選手は素晴らしい働きをしてくれた。九回のあの場面、一時は敗戦を覚悟したが、選手の意地がこの逆転につながった。亀谷も最初はどうなるかと思ったが、よく踏ん張ってくれた。ナイン全員の勝利です。次もチャレンジャーに徹します。
【河合洋平主将】
三年間の苦しい練習を積み重ねてきた僕たちの苦労が実った。最後の攻撃は全員一丸となって向かっていった。得点差があっても決してあきらめない気持ちがひとつになった。うれしいです。次も一生懸命やります。応援お願いします。

 平成8年8月18日の記事(福井新聞より) 執念一振り「狙った」逆転劇

執念一振り「狙った」逆転劇
【執念一振り「狙った」逆転劇】
九回表。1点差に迫ってさらに一死一、二塁。ここで登場した浅野は、これまで3打席凡退。だが浅野には自信があった。
「球威が落ち、変化球が多くなっている。狙い球はカーブ」。読み通りにインから真ん中に入ってきた、おあつらえ向きのカーブを強打すると打球は左中間に。二塁を回ったところで逆転のホームを踏む清水が目に入った。これで「勝利が見えた」。
浅野はこの打席の初球、サインが出ていたセーフティーバントを空振り。「しまった」と思った気持ちの切り替えは早かった。バント失敗をしっかり逆転打で返して“奇跡”の立役者となった。
センバツでは明徳義塾・吉川のスライダーにほんろうされ、3打席2三振。この苦い経験が浅野の打撃フォームを変えるきっかけとなる。
春の県大会準決勝の敗退後「つっ立っていた」フォームを改造。ひざを曲げ、重心を落とした。さらにマウンドに向かっていたヘッドを立てた。
フォームを固めるため、家に帰ってから素振りを毎日二百回、欠かさずやった。球が見やすくなり、ポイントへの呼び込みが容易になった。連日の孤独な特訓が、1回戦の先制2点三塁打、そしてこの日の殊勲打につながった。
お立ち台に上がった浅野は「(大事な場面での)逆転タイムリーなんて、最初で最後でしょう」とはにかんだ。だが笑顔には、これから先も十分、ラッキーボーイになりうる雰囲気が漂っていた。

 平成8年8月18日の記事(福井新聞より) 塚田6連続安打

塚田6連続安打
【塚田6連続安打】
福井商の塚田左翼手がこの日4打数4安打。2回戦からこれで6打席連続ヒットと乗りに乗って、連続打席安打の大会記録まであと2に迫った。
「狙い球を絞って思いっ切りいけた」と、県大会でも5割4分5厘と打ちまくり、すっかり自信をつけている。最初のバント安打で猛打ショーが始まった。スライダーを狙った五、八回。九回のタイムリーは「それまで外角の変化球を打っていたから、必ずインコースにストレートが来る」と読んだ。
今年一月にスポーツ用品メーカーが行った体力測定で、全国一のジャンプ力とお墨付きに気を良くし、北野監督からも「お前は強い打球が打てるのだから思い切り振れ」と信頼を置かれている。
試合中、一瞬頭をよぎった「負けるかもしれない」という思いを瞬時に「あかん、あかん」と振り切って手にした準々決勝。「自信を持って頑張る」と絶好調男は頼もしい。

 平成8年8月20日の記事(福井新聞より) 小技強打 攻め果敢 強い福商 勢い無限

小技強打 攻め果敢 強い福商 勢い無限
【小技強打 攻め果敢 強い福商 勢い無限】
【評】福井商打線が持ち味の粘りを発揮、高陽東の追い上げを振り切った。エース亀谷も攻めの投球で要所を抑え、会心の勝利で初のベスト4にこまを進めた。
福井商は初回に速攻を見せた。先頭・中川が初球をセーフティーバント。河合が犠打で送り、碧山が中前に弾き返し、わずか7球で先制点を奪った。
1-1の同点で迎えた四回には碧山が右前打、清水が送った。竹野は遊ゴロに倒れたが、3回戦の殊勲者・浅野が外野の前進守備を見逃さず、中越え適時二塁打で突き放した。続く塚田も強振、ワンバウンドで三塁手の頭を抜ける二塁打でこの回2点を取った。
追い付かれた福井商は八回、先頭・碧山がこの日4本目の単打を左前に運び、清水がきっちりと犠打を決めた。ここで竹野がコースに逆らわず一二塁間に持っていき碧山が生還。続く浅野の二ゴロが敵失となり竹野もホームを陥れ、試合を決めた。
先発・亀谷はこの日も気迫の投球。二回には高陽東の主砲・宗政に同点本塁打を浴びたが、後続をピシャリ。六回は一死満塁から同点適時打を打たれたものの、七回、一死満塁の逆転のピンチでは三振、遊ゴロでしのぎ、一度もリードを与えなかった。終盤、低めに伸びる直球が威力満点。八、九回は三人ずつで切ってとり、被安打5、7奪三振の完投で優勝候補の一角をねじ伏せた。
【北野尚文監督が試合を振り返る】
選手の底力には本当に恐れ入る。チーム結成時は、この先どうなるのかと思ったが、各自で努力してきたことが大舞台で生きている。勝利を重ねるごとに強くなってきている。傑出した選手はいないが、ナインと一緒になってまたひとつ、上を目指してみたい。
【河合洋平主将】
正直言ってここまでくるなんて思わなかった。センバツ以降、勝てるチームになって甲子園に帰ってこようと誓い合ってやってきた。今度も欲を出さず、みんなの力を一つに合わせて力いっぱい自分らの野球をします。

 平成8年8月20日の記事(福井新聞より) 快音目覚めた広角砲

快音目覚めた広角砲
【快音目覚めた広角砲】
眠っていた碧山のバットが、ついに火を吹いた。先制の中前打。八回には勝ち越しを呼び込む左前打。4打数4安打。ようやく主軸としての責任を果たした。ウイニングボールをがっちり一塁ミットに収めた瞬間、飛び上がって、その喜びを表現した。
甲子園入り後は通算2安打。チームの上昇ムードとは対照的に碧山のバットは湿っていた。3回戦の横浜戦では八回に代打に出た鈴木がそのまま一塁へ。「(打てなくて)代えられたのは初めて。悔しくて悔しくて。情けなかった」。無安打の悔しさから、気を紛らわすため北野監督に直訴し、ランナーコーチとして声を張り上げた。
十八日の練習中、北野監督に「(このままだと)鈴木が先発やぞ」と言われた。この言葉に碧山は燃えた。夜、宿舎近くの公園で素振り中にも「お前も竹野、浅野のように仕事してみろ」。燃えずにはいられなかった。「絶対やってやる」。チームメイトが引き揚げても、一人残って素振りを続けた。
試合前の電光掲示板を見て初めて自分が先発だと知った。「監督の期待の大きさを感じた。このチャンスを無駄にしたくない」。消極的だった男が変わった。2打席目は初球のカーブを引きつけ右前に。4打席目はボール気味の外寄り直球を左前に運んだ。県大会で見せた広角打法が、完全によみがえった。
復活を果たした碧山は「僕が活躍したのは県大会決勝でのリリーフだけ。インタビューを受ける竹野、浅野がうらやましかった」。福井商ナインは刺激し合い、どんどん頼もしくなっていく。

[思い出の甲子園 一覧へ戻る]

ページの上部へ

ピックアップ