平成元年10月11日の記事(福井新聞より) 福商接戦に粘りの本領
【8季連続の甲子園出場をほぼ手中にし、ゲームセットの瞬間、互いの健闘をたたえ合う福井商ナイン】
【評】センバツ当確を決める福商の得点は、大詰めの八回に転がり込んだ。一死から渡辺が右前打、水町が中前打して一、二塁。続く中村の2球目を捕手が横にこぼす間にランナーが飛び出し水町が塁に帰れずアウトとなったが、渡辺がこの間に三進。中村の遊ゴロが一塁に悪送となって渡辺がかえり、これが決勝点となった。
勝利を手中にしたのは中村の力投に尽きる。一回は山岸直の中前打などで二死三塁、四回も山岸直の左前打に2四球で一死満塁のピンチとなったが、後続をいずれも内野ゴロに切って取った。
中村はカーブ主体の投球。キレがよく、うまく内外角にコントロールして星稜打線を揺さぶった。中盤からはカーブに直球を織り交ぜて的を絞らせず、五回以降は7三振を奪った。結局許した安打は2本だけ。強打線を売り物にしていた星稜を完全に抑え込んだ。
福商にとっては前半、得点に結び付けられる場面が何度かあった。一回は渡辺が中前打、水町の捕手前バントが二塁送球の野選となって一死一、二塁。中村の右前打で満塁としたが、北山のスクイズが大きく外され(記録は三振)ランナーも塁に帰れず併殺。三回は花山左前打、渡辺が送り、水町中前打で一死一、三塁。中村の初球に水町が飛び出し挟まれている間に花山が本塁を狙ったが憤死。このあたりは回が早かっただけに、じっくりとした確実な攻めがほしかった。
福商は中村の力投もあって1点を争う苦しい試合をよく踏ん張ったが、奪った8安打は上位四人。下位打線が奮起して出塁し好機を上位につなげるパターンをつくりたい。
【北野監督】
一回のスクイズ失敗や三回の本塁憤死は私の作戦ミスで選手に悪いことをした。だが選手たちは接戦をよく戦ってくれた。試合前は大量点で負けるのではと思っていたが、中村が踏ん張ってくれた。決勝は一つひとつのプレーを大事にして粘りの野球をしたい。
【花山主将】
センターで守りながら見ていても、中村のボールがコーナーにぴたりと決まり、崩れるような感じは全くなかった。決勝でもナイン一丸、気迫のプレーをしたい。
平成元年10月11日の記事(福井新聞より) 右腕さえ執念の108球 中村星稜を2安打完封
【星稜打線を2安打完封した福商・中村】
中村の右腕がさえた。北信越大会3連投。いずれも苦しい試合を乗り越え、センバツをほぼ手中に収める立役者となった。
気力以外のなにものでもない。1回戦の高岡一戦での5-4サヨナラ勝ちでは180球、2回戦の東海大三戦では一回一死からリリーフに立ち延長十四回サヨナラ勝ちまで173球投げ抜いた。
「肩は張っていたが、もう全力でいくしかない」準決勝を前に自分に言い聞かせた。この立ち向かう気追いが、2試合連続コールド勝ちを収めて波に乗る星稜打線を2安打完封で仕留める原動力となった。星稜戦は108球。「一球一球に執念を込めた」と胸を張った。
北信越大会に入ってからカーブのキレが抜群。「横と斜めに落ちる二種類。内外角にきっちり投げ分けられば、そう打たれることはない」と言ってのけた。これまでは三年生の近岡ら一番手から三番手までの投手を上級生が占めていたため、公式戦の出番はほとんどなかった。それがこの大会で接戦をものにするたびに一回り、一回り大きくなり、押しも押されもしないエースにのし上がった。
北野監督は「中村が一番伸びた選手。短期間によくここまで成長してくれた」という。「カーブは申し分ない。あとはパワーアップを図り、ボールに力がついてくれば」さらに飛躍を願って熱い口調で付け加えた。
センバツをぐいと引き寄せ、八季連続甲子園出場をほぼ決めたナイン。「だが本当に力が付いたかどうかの証拠を示すのは決勝の金沢戦。決勝ではこれまでの戦い以上の内容を見せなければなんにもならない。ボールに食らいついて、闘志あふれるプレーに徹したい」限りない前進を続ける北野監督は気合を込めた。
平成元年10月12日の記事(福井新聞より) 福商、金沢に競り負け
【6回裏福井商2死三塁、北山は右飛に倒れ反撃ならず】
【評】福商、あと1本がどうしても奪えなかった。中村、中川の力の入った投げ合いで試合内容はほぼ互角。結局、決定打の違いが0-2の得点差となって表れた。
福商は一回、渡辺が四球で出塁、二死後、中村が右前に弾き返して一、二塁としたが北山が投ゴロに終わり先取点に結び付けられなかった。
これに対して金沢は二回、先頭の中井がワンバウンドボールを振り逃げして出塁、宮本の右前打で三進し、島田の左犠飛で先行。
福商にとっては振り逃げで打者を生かすというわずかなスキを突かれた痛い失点だった。
五回には後藤に死球、二盗を許し、東山の投手のグラブをはじく強襲安打で一死一、三塁。中居に右前に落とされ2点目を失った。
福商は三回には二死から渡辺が中前打したが後続なし。六回には渡辺四球、水町が送り一死二塁、八回にも四球の花山を渡辺が送るなど二死三塁と手堅く得点圏に走者を進めたが適時打が出ず、追い上げられなかった。
中村は4連投ながらよく投げ抜いた。持ち前のカーブのキレのよさで揺さぶり、中盤以降は直球も走り出して強打の金沢に本来のバッティングをさせなかった。中村が好投していただけに福商打線としては、走者なしの時は直球、走者がいる時はカーブとう中川の投球パターンに的を絞り、中村を盛り立てたかった。
【北野監督】
金沢の中川投手のボールに押され気味で決定打が出なかった。中村は4連投で腕にも張りがあり万全ではなかったが、後半はボールも走り出しよく投げ抜いた。チームづくりが遅れたが、選手はよくやってくれた。また練習を重ねて鍛え上げていきたい。
【花山主将】
中川君にうまく攻められた。なんとが反撃しようと思ったが、最後までつかまえられなかった。でもこの大会はみんな自分たちの野球ができたと思う。苦しい試合の連続だったが、いろいろ経験できたことを今後に生かしたい。
平成元年10月12日の記事(福井新聞より) 目標見えた「春」へ一丸
- 【1年生鍛え選手層に幅】
六十に年秋以来、北信越大会十一回目の優勝にはあと一歩及ばなかった。相手は石川県大会1位の金沢。長身から投げ下ろす投手・中川の評判も高かった。試合終了後、北野監督は「直球、カーブがコントロールされ、それも低めに集まっていたので打ち崩せなかった」と無念の表情を見せた。
試合は金沢にうまく得点されたが、内容では福商も見劣りしなかった。その第一は中村の力投。2回戦で大野を4-0、準決勝では13安打で高岡商を11-4の七回コールドで退けた強豪金沢に真っ向から勝負を挑んだ。
そして再三にわたる渡辺三塁手の美技、高嶋捕手の好リード、、、そんなナインの一つひとつのプレーを監督は「ずいぶん成長してくれた」と振り返った。
その言葉通り、今大会の福商の試合ぶりには目を見張るものがあった。1、2回戦では粘りの連続サヨナラ勝ち。準決勝の星稜戦は1点を争う苦しい展開に勝ち1-0の最少点差で逃げ切った。
伝統チームらしいどっしりとした強さに、優勝を決めた金沢の樺木監督でさえ「福商には簡単に勝てない不気味な力があり、圧倒されそうな気がしていた。バッテリーのよさ、堅い守りで、うちとしてはチャンスをなかなかつくれなかった」と言うほどだった。
福商には次の目標がある。確定的にしたセンバツ。甲子園は六十一年夏から八季連続出場の新記録だ。この大きな目標に向かってナインは一丸となって突き進む。北野監督も熱気あふれる口調でいくつかの課題をあげた。
「まず一年生のパワーアップを図り、選手層を厚くする。攻撃面ではバント、巧みな走塁など細かいプレーも身に着ける。中村もボールに磨きをかけること。選手たちは一人ひとり、いいものを持っている。練習に練習を積んで、ますますいいチームにしていきたい」