昭和52年8月9日の記事(福井新聞より) 攻守にはつらつ福商ナイン 11長短打の猛攻 安川好投 三塁踏ませず
【攻守にはつらつ福商ナイン 11長短打の猛攻 安川好投 三塁踏ませず】
【評】超満員の観衆の中で福商は持てる力をフルに発揮した。終始伸び伸びとプレーし、開幕第一戦の緊張感は全くない。それどころかエース安川が三塁を踏ませない好投を演じ、打線も絶好調、守っても鈴木が超美技を披露するなどヒノキ舞台で大暴れ。松商に全くつけ入るスキを与えず一回戦を突破、初名乗りを上げた。
初回松商は奇襲戦法できた。トップの百瀬が安川の初球をいきなり一塁側へバント。不意を突かれた形の平井は一塁カバーに入った安川へのトスを乱し無死一塁、なんともいやな滑り出しだ。だが安川はこれでかえって落ち着きを取り戻した。やや力みすぎてボールが高めに入っていたが、球威は十分。バントで一死二塁の後内角にナチュラルシュートする重い直球で後続を断った。
これに対し福商打線は正攻法で向かっていった。野手の正面を突いたり攻守に阻まれるなどツキのない場面もあったが、立ち上がりから打線は完全に下手投げの上条を圧倒していた。打者一巡した四回福商は試合巧者松商のお株を奪ったような鮮やかな攻撃で0-0の均衡を破った。
この回一死後、平井が中前へ。続く小嶋の三塁線を痛烈に破る二塁打で二、三塁の先制機を迎えた。ここで竹内は2-3から二本のファウルを粘った後一変してピッチャー前へ絶妙のスクイズを決めて貴重な先制点をものにした。
リードをもらって安川の右腕はますますさえを見せた。常にストライクを先行させ大きく落ちるカーブや打者の胸元に食い込む直球で打ち取る。守っても四回には、鈴木がファウルフライをフェンスぎりぎりまで追いかけてスライディングキャッチするなど福商は完全に波に乗った。
六回には奥田の左中間二塁打を足掛かりに藤沢が送った後、沖島の大きな右犠飛で1点を追加。さらに七回には下位打線が球威の衰えてきた上条をとらえた。竹内が右前安打、岩堀は左前へはじき鈴木の右前適時打で3点目。福商お家芸のつるべ打ちで上条をKO、代わった本格派の平沢からも当たり屋奥田が中前にはじき、捕逸というおまけまでついてこの回3点を奪い大勢を決めた。八回には小嶋、岩堀、鈴木に長短打が飛び出しダメ押しの2点を加えた。
打線の援護に気を良くした安川は快調なピッチング。六回には二死後右中間に二塁打を浴びたが全く動ずるところがない。結局松商打線を4安打散発に抑え三塁を踏ませない力投で完封した。投打の歯車ががっちりかみ合った福商の会心の勝利であった。
【北野監督】
選手には球に逆らわず右打ちに徹するよう指導した。みんなその通りの打撃をしてくれた。安川も肩の故障にもかかわらずよく投げた。全員が練習通りの力を出し切れたという意味で満足出来る内容だ。1点リードして逆に苦しい立場になったが3点目が入っていけると思った。
【沖島主将】
四回の鈴木のファインプレーで試合の流れが変わった。ぐんとムードもよくなり福商ペースになった。安川は途中でやや肩に力が入りすぎたようだが八十点以上の出来だ。特に直球がよく伸びていた。松商打線が簡単に打ってくれたので助かった面もある。
平成52年8月9日の記事(福井新聞より) ヒーロー 「手ごたえなかった」 ”心臓に毛のはえた”安川投手
【ヒーロー 「手ごたえなかった」 ”心臓に毛のはえた”安川投手】
心臓に毛のはえたヤツとはこの男のことを言うのだろう。全くあがるということを知らない。「これまで試合であがったというのは一年生の初先発のときぐらいです」と言う。開幕第一戦、超満員のスタンドの視線を集めて最高のピッチングをするのだから全く恐れ入る。
「調子はよかった。特に内角への直球が伸びていた。松商は打率がよいと聞いていたのに手ごたえがなかった」と平然と言ってのける。「低めの球をストライクに取ってくれたので楽に投げられました」とも言う。
散発の4安打完封。ベストピッチングだ。「自分でも信じられない程緊張感はなかった。満員の観衆も一人一人の顔が見えないのでいてもいなくても同じです」淡々とした口調で話すがさすがに喜びは隠し切れない。
安川投手の胸には一ヶ月前の苦しい思い出がよみがえってくる。それは県大会を一週間後に控えて猛練習を続けているときだった。突然右肩がズキズキ痛み出し全く投球が出来なくなった。医者で痛み止めの注射を打ったりマッサージを繰り返して徐々に回復に向かっていったが県予選には間に合わなかった。
県予選の一、二戦をベンチで見守ったが「ここで負ければ僕の責任だ」人一倍責任感の強いこの男はいても立ってもいれなかった。第三戦から登板したが肩は完全には治っていなかった。
いつ再発するかわからない。常に右肩に爆弾を抱えているような状態だ。ナインより一足早く甲子園入りして専門医にマッサージや針の治療を受けてきた。今も毎日薬を飲み続けている。
「もう野球は無理かもしれない」と思ったこともある。だが見事に立ち直った。「別に立ち直りのきっかけはないけれど僕は人に負けるのが嫌いなんです」と厳しい顔つきで話す。
「福商は打のチームと騒がれ投手力が劣ると言われてきたが、これでちょっとは評価が変わるかも・・・。でも本当の僕の力が試されるのは次の試合です」勝利の喜びもそこそこに安川投手はまた新しい目標に向かって力強く歩み始めた。
昭和52年8月15日の記事(福井新聞より) 猛反撃あと1点及ばず 8回、一打同点阻まる 高知好投安川つぶす
【猛反撃あと1点及ばず 8回、一打同点阻まる 高知好投安川つぶす】
【評】打と打が火花を散らしガップリ四つに組んだ見ごたえのあるゲーム展開となった。福商は強豪高知を相手に五分にわたり合ったが、一歩及ばず三回戦進出の夢を断たれた。
終盤に来て大量4点リードを許したのでは、もう勝負は決まったようなものだ。だが強打の福商にとって4点はまだまだ射程内だった。7-3で迎えた八回、福商は猛反撃に転じた。竹内が凡退した後岩堀がバント安打を放って反撃の口火を切った。鈴木もしぶとく右方向にはじき内野安打。安川が送って二、三塁とした後奥田に右翼線いっぱいに入る二塁打が飛び出し2点を返した。さらに藤沢も左翼線の二塁打とたたみかけ奥田を迎えて1点差に詰め寄った。
福商の猛追に、三塁側アルプススタンドだけでなく、ネット裏の観衆からも大歓声が起こった、この異様なまでのムードの中で、マウンド上の西川もすっかり浮き足立った。一打同点の絶好機に期待の沖島は遊撃右にころがる痛烈な当たり。あわや抜けるかと思われたが、うまくさばかれて反撃は一歩及ばなかった。
福商頼みの綱、安川は直球を内角に良くコントロールし、快調の滑り出しだった。球威も申し分ない。しかし外角球一本にマトをしぼって右打ちに徹してきた高知打線が一枚上だった。二回橋本、小松の連打に福商の守りの乱れも重なり1点を許し、三回にも黒岩の二塁打と福島の三塁打などで2点を追加された。
福商も三回、球威を欠く西川に襲いかかった。一死後沖島が中前打、平井も左前へ流し一、二塁とした後、小嶋は中飛に倒れたが、竹内はうまく右翼線に狙い打って2点、さらに岩堀も左中間を深々と破って、試合を振り出しに戻した。いずれも西川の球にさからわないで流し打った会心のバッティングだった。
同点となってかえって安川は肩に力が入りすぎたのか、カウントを整えに行くカーブが決まらない。苦し紛れに投げる外角直球をことごとく狙い打ちされて六、七、八回と小刻みに得点を許してジリジリと引き離された。
安川の球をじっくり待って好球だけを逃がさず打ちに来る高知打線に対して、福商は四回以降やや早打ちが目立つ。西川が常にボールを専攻させて決して好調でなかっただけに、もう少し落ち着いて攻めたかった。それにしても四回以降完全に鳴りをひそめた福商打線が、八回に見せた猛反撃は、最後まで勝負を捨てない、高校生らしいさわやかな印象を与えた。
【北野監督】
選手にはそれぞれねらい球をしぼって思い切りやるように言い聞かせて来た。強豪高知を相手に良くやってくれた。二回のミスは痛かったが、その後は良く守り最小失点に抑えることが出来たので反撃の自信はあった。安川も力投してくれた。だがそれ以上に高知打線が強力だったということだ。もっと力をつけて出直したい。
【沖島主将】
完全に打ち負けた。安川はまずまずの出来だったが、ややボールが高めに浮いてしまった。それをすべてねらい打たれた。高知打線はなかなか強力だが、うちも負けてはいなかったと思う。ただ八回の絶好機に自分に一本出なかったのが残念だ。
昭和52年8月15日の記事(福井新聞より) 悔いなしナインさわやか 2年生コンビ「炎の野球受け継ぎます」
【悔いなしナインさわやか 2年生コンビ「炎の野球受け継ぎます」】
甲子園のひのき舞台で福商ナインは持てる力のありったけを出し切った。「三年間の高校生活の中で一番いい試合でした」と平井選手は言う。負けて悔いなし、甲子園球場を引き上げていくナインの表情には「思い切りやったんだ」という満足感に似たものさえうかがわれた。
炎のナインは強豪高知を相手により一層、大きな炎を燃やした。一旦は同点に追い付き再び引き離されてからも、1点差にまで詰め寄る猛反撃を演じたこのすばらしい闘志に、内野スタンドの一般ファンからも「ワッショイ、ワッショイ」の大声援が起こった。二回戦あたりで一般ファンをも巻き込んだ声援が起こるというのは珍しいことだ。
しかし福商はあと1点に泣いた。7-6まで追い上げて炎は燃え尽きてしまった。敗れたとはいえ福商ナインのさわやかな健闘は、大いにたたえられよう。
5打数3安打と大当たりの平井選手は「土壇場で打てなかったので・・・」といいながらも、「悔いのない試合でした」とじめじめした表情はない。ひざを痛めて甲子園入りしてからも毎日病院に通っていた小嶋選手も七回に超美技を見せてくれた。
足に肉離れを起こし、ここ数日ほとんど走りこんでいない奥田選手も攻守に大活躍。さらに一回戦では当りの出なかった藤沢選手も「やっと一発がでました。ここまでやって負ければ仕方がない」と言い切る。
いつ再発するかもしれない肩の痛みと戦って一、二戦を投げぬいた安川投手は「これで一回戦の完封は吹っ飛んでしまいました。でも力いっぱい投げたのだから」と表情に暗さはない。安川投手の女房役として立派に務めを果たした沖島選手にも負けたくやしさはなかった。
高校生活最後のすばらしい甲子園の思い出を心に刻んで、三年生の選手たちは球場を後にした。その中で岩堀、竹内の二年生コンビは「先輩たちが築いた炎の野球を、これからもしっかり受け継いで行きます」と新しい目標に向かって歩き始めた。