昭和50年4月1日の記事(福井新聞より) 福商、倉吉北に圧勝 初回から果敢な攻撃 前側好投 前半で決める
【福商 倉吉北に圧勝 初回から果敢な攻撃 前側好投 前半で決める】
【評】前側の投打にわたる活躍で福商は初戦を飾った。倉吉北の守備の乱れに助けられた面もあるが、足を生かした機動力を十分に発揮、守っても無失策で切り抜けるなど、まさに福商の圧勝と言える。 先手は福商が取った。初回、木本が凡退した後、北野は二塁ゴロ失策で生きた。ここで北野監督はヒットエンドランの強攻策、遊撃手が二塁カバーに入る逆をついて野村が三遊間を抜き一死一、三塁。続く前側は立ち上がりほとんど直球一本で押してくる岩山の初球をねらいすまし、やや泳ぎながらも力で振り切り左中間を破る二塁打。鮮やかな先制パンチで2点をもぎ取った。
この後も岩山の単調でさほど球威のない投球に福商打線は痛打を浴びせた。三回には木本が死球を選んだ後、持ち前の俊足で二塁、三塁と盗み、北野の右越え三塁打で1点を追加。野村の投ゴロで北野は三塁に刺されたが、この間に野村は二進。三遊間安打の前側が一、二塁間にはさまれるスキに一挙にホームを踏んだ。
一方、倉吉北は初回から全力投球を見せる前側の前になすすべがない。内角に食い込むシュートにつまり、三回までは凡退を繰り返すだけ。打者一巡してようやく前側の投球にも慣れた四回、先頭の福田が真ん中の棒球を左中間に持っていき無死三塁。続く福山の一塁強襲安打で1点を返し、打撃のチームの片りんを見せた。 しかし、福商はその裏、倉吉北内野陣の乱れに乗じて2安打で2点を加えて突き放した。10安打を放った福商打撃陣と強打の倉吉北打線をわずか3安打に抑えた前側の健闘は十分評価される。が、走者が簡単にけん制に刺されたり、足におぼれてボーンヘッドを繰り返すなど、会心の試合内容とは言えなかった。
また、倉吉北にとっては、岩山投手が五回以降、鋭いカーブを主体にしたピッチングで福商打線を1安打に抑えているだけに、初めからカーブを多く使っていけばとの悔いが残ったであろう。
【北野監督】
お恥ずかしい試合を見せてファンの方に申し訳ない。倉吉北がまだ調整不足だったのに助けられて勝てた試合だ。チームとしては七十五点の出来。前側も投げ急いだり、腕の振りが甘いなどまだまだ不安材料が多い。1回戦は勝たせてもらったようなものだから、今度こそ全力をあげて、いい試合が出来るように調整したい。
【野村主将】
勝ったという喜びはあまりない。とにかく攻撃がちぐはぐで、チームの歯車が少し狂っていたようだ。昨年の秋以来、全く試合をしていなかったので、最後まで福商本来の力を出すことが出来なかった。これからはよほど締めていかねばならない。2回戦は初めから出直すつもりで頑張る。
昭和50年4月1日の記事(福井新聞より) 3安打に抑える活躍 小さな大投手、前側 打っても先制の二塁打
【3安打に抑える活躍 小さな大投手、前側 打っても先制の二塁打】
小さな大投手は評判通りの力を発揮した。チーム打率3割6厘を誇る倉吉北打線をわずか3安打に押さえ、エース不在とまで言われる今大会でひと際光った。九回を投げ切って引き上げて来た前側投手は疲れた表情もなく「まあこんなもんでしょう」とケロリとしている。明治神宮大会優勝投手の貫禄十分だ。
「スタミナには自信があるので最初から飛ばしていきました。初め内角に食い込むシュートがよく決まったので、今日はいけると思いました」と言う。表情は明るい。いつもあまりしゃべらないのに、この日ばかりは強気の言葉が飛び出す。
それもそのはず、打っても初回に走者二人を置いて先制の大二塁打。三回にも三遊間安打を放つなど大活躍。いずれも、やや高めの球を腕の力だけで持っていった決してほめられたバッティングフォームではないが、前側投手からは生来の勝負強さと底知れぬ力強さが感じられる。 そして「倉吉北打線は迫力がなかった。攻撃の工夫が足りなかったようですね」と言ってのける。甲子園のマウンドでも全く気後れするところがない。ピンチに追い込まれても、いつものゆっくりした投球のリズムが崩れることはない。文字通り甲子園のヒーローだ。
しかし、この勝負強さや底知れぬ力の陰には、一人コツコツと積み重ねてきた練習の裏付けがある。冬の間、厳しい練習に疲れて家に帰ってからも、夜通し黙々と走り続けた。毎日欠かさず10キロ近くも走る。「苦しい毎日でした。でも僕のように小さい体でエースになるためには、人一倍練習しなければ・・・とがんばりました」と言う。
今、この練習が実を結んだ。二万七千人の観衆が見守る中で立派にエースの重責を果たした。選手通路を意気揚々と引き揚げていく途中、母親と目を合わせた前側投手は笑顔を見せ「母さんやったよ」と言わんばかりに胸を張った。
だが、1回戦を乗り切った前側投手にとって本当の試練はこれからかも知れない。「今日は後半悪かったので七十点ぐらいの出来です」との言葉から、2回戦からは百点満点のピッチングを・・・との闘志がうかがえた。頼もしいエースだ。
昭和50年4月4日の記事(福井新聞より) 福商8強 前側、広島工を完封 六回鮮やかな集中打
【福商8強 前側、広島工を完封 六回鮮やかな集中打】
【評】息詰まるような投手戦に終止符を打ったのは、1回戦のヒーロー前側だった。投げても広島工のシャープな打撃をわずか内野安打2本に抑える好投。勝負強さをいかんなく発揮した福商は、雪国のハンディを全く感じさせない見事な勝利で、ベスト8進出を果たした。
五回まで広島工・小林投手の速球に完全に抑えられていた福商打線は六回に爆発した。先頭打者の左近は四回ごろからややボールが先行し始めた小林から四球を選んで始めての無死走者。どうしても先取点が欲しい福商は、ここで木本が三塁前に絶妙のバントを決めた。続く北野は外角の直球をうまく一、二塁間に持っていき一死一三塁とした。このチャンスに野村は1-1の後、スクイズを試みたが、惜しくもファウル。だがフルカウントからよく選んで一死満塁と詰め寄った。
ここで打席に入ったのは1回戦でも先制の二塁打を放って波に乗っている前側。制球に苦しむ小林が投げ込んできた一球目を見逃さず、右前へ落とした。打った球はやや内角よりのシュートぎみの球。小林も自信を持って投げ込んだのだろう。それにしてもつまりながら右飛前まで持っていった前側の力、勝負強さは見事というほかない。
待望の1点を取った福商はもう押せ押せムード。続く山本は2球目をスクイズしたが、これもファウル。気を取り直した山本は、走者に気を使い球威のやや落ちた小林の直球を見逃さなかった。打球は快音を残して三塁線を破った。二者生還。チャンスは絶対にものにする・・・という福商野球の神髄を見せてくれた。
「打線が3点以上取ってくれれば勝つ自信がある」と言っていた前側は、その言葉通りの援護で広島工打線を全く寄せ付けない快投ぶり。前側自身のエラーでヒヤリとする場面もあったが、内角へのシュート、外角に流れるカーブ、そしてホップするような直球でうまくかわし外野への飛球は1本だけ。奪われた安打も四、六回の内野安打2本という完璧な内容。特に最終回はますます右腕がさえ二者連続3球三振に打ち取った後、小林を遊ゴロに仕留めゆうゆう逃げきった。
【北野監督】
本当に運が良かった。五回までは全く打てなかったので何としても1点が欲しくて必死だった。六回のたった一度のチャンスをものに出来たのは好運としか言いようがない。前側もあまり調子はよくないが、丁寧に投げたのがよかったのだろう。3点取ってほぼ安心した。高知戦でも全力を尽くせばよい試合ができると思う。
【野村主将】
1回戦よりよい試合が出来た。監督から最後の試合だと思ってがんばれ・・・とハッパをかけられたので、みんな気合が入っていたようだ。初めなかなか打てなかったので苦しかったが、3点取って勝てると思った。次の高知には杉村君というすごいバッターがおり、打撃のチームということを聞いている。しかし前側の調子がよいので勝つチャンスも十分ある。
昭和50年4月4日の記事(福井新聞より) 「ヤマ張り思い切り振った」山本 話す言葉は”投”より”打”前側
【「ヤマ張り思い切り振った」山本 話す言葉は”投”より”打”前側】
「インコースベルト当たりのシュート。やまをかけていたので思いっきり振った」と、ダメ押しのヒットを放った山本選手はニッコリ。山本選手が六回裏に打った三塁線をはう強烈な一打が、福商の勝利を決定づけた。1回戦の対倉吉北戦で4打数1安打とやや不振だった山本選手。五番バッターの座をこの日の試合にかけていた。その覚悟は並々ならぬものがあった。
だが、このダメ押しの一打もスムーズに出たものではなかった。北野、野村、前側の三人を塁上に置いた一死満塁でスクイズを失敗。「シマッタ」と思った。だが負けん気の強い山本選手。北野監督から「打って行け」とのサインに「よし名誉ばん回だ」と気を取り直した。そしてこの快打。「自分ながらうまく気分転換が出来た」と喜ぶ。試合終了後、ホームベース上に並んでメーンポールの校旗に見入ったそのほおに、大粒の涙が流れていた。「めったに泣くことがない」山本選手。「災いを福に転じて期待にこたえられたから・・・」と、涙はとどまるところを知らなかった。
山本選手のこの日の活躍の裏には、これまで暖かく見守り続けてきてくれた一瀬前福商校長の励ましがあった。二日夜の宿舎でのこと。「お前は将来、福商の四番を打つすばらしいバッターなんだよ。思いっきり打て。必ず打てる」と一瀬前校長の言葉。「あの暗示が今日のヒットにつながったんです。スクイズを失敗しても打てそうな気がしたんですから。すべて一瀬校長のお陰です」と、インタビュー室に姿を見せた一瀬校長に深々とお辞儀した。そして「これで泊り込みの応援をしてくれている父と母にも恩返しが出来ました」と親孝行らしい言葉。最後に「明日の高知戦でもがんばります」とキッパリ言い切った。
「初球は絶対ストライクが来ると思っていました。ちょっとつまっていたが、思い切りスイングしたのがよかったのでしょう」九回を投げ終えた前側投手はこう話す。1回戦に続いてまたも投打に大活躍。マウンドに登ることはもちろん、打席に入るのも楽しくてしょうがないといったところ。
広島工打線を2安打散発に抑えたヒーローも「1回戦より調子が悪かった。球が死んでいたようです」と反省する。特に五回までは苦しかった。広島工小林投手との投げ合いでゼロの均衡が続く。打たれないためにはボールを散らす以外にない。内外角に丁寧に投げ込む。たった一球の失投も許されないのだ。
そして六回。一死満塁のチャンスに打席に入った。前側投手の頭にちらりと1回戦で先制適時打を放った光景がよぎった。「よし、初球からねらっていってやろう」そう思いながらフルスイングした。打球は右翼前にポトリ。「ワァー」という大歓声。まさに値千金の一打だ。
続く四打席目も目の覚めるような二塁打を左中間に飛ばした。試合を終えてニコニコしながら話す言葉は投球内容よりもバッティングのことが多い。今前側投手は打席に入るのが楽しくてしょうがないのだろう。
昭和50年4月5日の記事福井新聞より) 福商「ベスト4」ならず 初回の先制むなし 魔の七回高知の逆襲許す
【福商「ベスト4」ならず 初回の先制むなし 魔の七回高知の逆襲許す】
【評】強豪、高知を相手に互角に渡り合った福商。初回に鮮やかな速攻で先手を取り、押し気味に試合を進めたが、七回に逆転されベスト4進出を阻まれた。だが、好投手前側を擁した福商にとってベスト4への道はそう遠くないと印象を与えた。
一回の福商の先制攻撃は木本の死球に始まった。北野が絶妙のスリーバントを決め一死二塁。続く野村は三遊間に内野安打、一死一三塁とした。ここで今大会大当たりの前側。高知内野陣は前側の強打を警戒して中間守備。前側は1,2球と打つ構えを見せながら見送り、3球目、外角高めのボールに必死にバットを立てて見事なスクイズバントを決めた。
この意表を突くスクイズで試合の主導権を握った。その後もボールが先行し得意のカーブが決まらない高知・山岡投手を攻め、二、三、四回にそれぞれ得点圏に走者を送ったが、決定打を欠き追加得点が出来ない。
一方、前側は相変わらずのゆっくりしたモーションから重い直球と外角へのカーブを使い分け、六回までわずか1安打に抑える完璧なピッチング。しかし七回、とうとう高知打線につかまった。先頭打者、松生に対する6球目のシュートが魔の一球となってしまった。投球はややすっぽ抜けた感じで真ん中に入っていった。松生に左中間を破られる三塁打。続く強打者、杉村を三振に打ち取りホッとしたのもつかの間、山岡にスクイズバント(記録は内野安打)を決められ同点。本多にも中前にはじき返され逆転された。
打線も後半、カーブが決まり出した山岡に手をやき、あと一歩が及ばなかった。前半、山岡の調子が出ないうちに、せめてもう1点取っていれば・・・と惜しまれる。しかし”西の横綱”高知とガップリ四つに渡り合った福商の善戦は見事だった。その健闘は、本県勢のセンバツ史上にいつまでも残ることだろう。
【北野監督】
前半で3点は取らなければならなかった。いわゆる”スミ1″の試合でいやな予感がしていた。前側は高知の強打線をよく抑えてくれた。バッティングを中心にもっともっと練習しなければ・・・。
【野村主将】
よく投げた前側にすまない気持ちでいっぱいだ。前半、追加点が取れなかったのはバッティングが雑だった。もっとち密な野球をやらねばならない。夏までにはベスト4に入れる力がつくようにがんばります。
昭和50年4月5日の記事福井新聞より) 悔いなし・・・さわやか 夏を目指し闘志も新た
【悔いなし・・・さわやか 夏を目指し闘志も新た】
戦い終わってベンチ前に整列した福商ナイン。メーンポールに上がる高知校旗を眺める目に無念の涙が浮かんだ。甲子園に来て初めて見せる前側投手の涙。野村選手の目も涙で真っ赤。一塁側福商応援スタンドでも、同校女子生徒たちが肩を震わせて泣きじゃくった。
「やっぱり戦いは勝たなきゃかん」選手控室に帰ってきても山崎選手の涙は止まらない。うつ向いたまま無言のナイン。しかし敗れて悔いなし福商ナイン。センバツ史上、本県勢で十四年ぶりにベスト8進出の快挙を成し遂げた。その顔には、全力を出し切った者だけが知る”さわやかさ”があった。「悔いはない。ここまで来れたんだから」と左近選手。「バッティングを鍛え直して出直しだ」と佐々木選手は一文字に口を結んだ。
「まだ夏がある。今度はもっと打てるようになって前側を助けてやろう」野村主将はこう自分自身に言い聞かせて、ナイン一人一人の肩をたたいて回った。一瀬、小林両新旧校長も「よくやった。明日からまたがんばって夏も甲子園に来よう」とねぎらいの言葉。ナインの顔にはもう悔しさはなかった。その目には夏のベスト4進出を目指して、早くも闘志がみなぎっていた。
「勝ち負けはそのときの運。全力を出し切って悔いのない試合をやろう」北野監督の言葉に福商ナインは試合前から燃えていた。北野監督の指示を忠実に守り、大観衆の前で甲子園のグランドを走り回った福商ナイン。”好投手前側あり”の強烈な印象を残して甲子園球場を去っていった。