平成元年8月18日の記事(福井新聞より) 気力キラリ 福商16年ぶり進撃 佐野日大連続無失点投手を攻略
【気力キラリ 福商16年ぶり進撃 佐野日大連続無失点投手を攻略 近岡好投6回に勝ちこし】
【評】福井商が夏の甲子園大会で初の2勝目を挙げた。2点を先制したものの、すぐに追いつかれるという苦しい試合展開。「何がなんでも勝つんだ」という福井商の力が勝利を呼び込んだ。
初回野阪は、二ゴロ失策で出塁。続く西村は、味方エラーで気落ち気味の麦倉の初球、内角寄りの甘い直球をフルスイング。打球はぐんぐんと伸びて右翼線三塁打となり、野阪が俊足を飛ばして一気にホームベースを踏み先制。麦倉の48イニング連続無失点をストップさせた。さらに一死三塁の好機、近岡の二ゴロで西村が生還して、この回2点を挙げた。
近岡は立ち上がり、球が高めに浮き須賀にいきなり中前打を打たれたが、三井、長島の中心打者を連続三振に打ち取り、順調な滑り出し。
しかし二回には荒井、小堀、山口に3連打を浴びて1点を献上。三回には内角高めの甘い直球を須賀に右翼ポール際のラッキーゾーンへ運ばれて2点目を与えてしまった。
同点のまま迎えた六回、近岡、松倉が連続四球で一死一、二塁の絶好の追加点のチャンスに、三上が左前打を放ったが、二塁から突っ込んだ近岡は本塁で憤死。しかし、なおも続く二死二、三塁の好機に、1回戦で5打数4安打の大当たりを見せた青柳が詰まった当たり。これが中前へポトリと落ちるラッキーなヒットとなって松倉が決勝のホームを踏んだ。
1回戦と同じく五回からセットポジションでの投球に切り替えた近岡は後半、しり上がりに調子が良くなった。六回裏には四球と野選などで自ら一死二、三塁のピンチを招いたが、続く荒井を直球で三振、小堀を二ゴロに打ち取り、試合を左右する重大な局面を乗り切る踏ん張りを見せた。
七回には須賀の二飛を松本がジャンプして取るファインプレーも飛び出し、勢いに乗った近岡は八回に四球を一つ与えたものの終盤をピシャリと抑え、福井商を3回戦へ導いた。
本塁で三回も憤死する走塁の課題も残るが、好投手麦倉を打ち崩し接戦をモノにした福井商の気力が光る一戦だった。
【北野監督】
苦しかった。近岡が本来のピッチングをしてくれた。苦しい試合で選手は成長する。麦倉君はしなやかで伸びのある球を投げる好投手だった。ウチは走塁などに課題が残る。しかし、夏は初の2勝でうれしい。2、3点に抑えれば勝てると思っていた。
【松倉主将】
近岡の出来は70点ぐらいじゃなかっただろうか。しかしきょうは近岡の好投に尽きる。麦倉君は北陸の鈴木君にそっくり。手元で伸びる球が同じ。センター方向へゴロで打ち返すように狙ったのがよかった。
平成元年8月18日の記事(福井新聞より) 初の”夏2勝”作戦ズバリ 麦倉意識し燃えた 近岡
【麦倉意識し燃えた 近岡】
「今日の出来は80点~90点でした」近岡は、同じ右の本格派として麦倉を意識したことが、自分自身を燃え上がらせる結果につながったと、投球を振り返った。
二回に許した1点。「これまで3連打を打たれたことがなかった。コースが甘かった」と反省する。気持が焦り、体が突っ込む分、ボールが高めに浮き、三回には「イン、ハイ、真っ直ぐ」を須賀に右翼ラッキーゾーンへ打ち込まれた。「ファウルになると思ったが、ポール際ぎりぎりに入り驚いた」とか。しかし麦倉の無失点記録を破った打線に「いつか取り返してくれると思い、気落ちはしなかった」と信頼の強さを語る。
六回に迎えたピンチ。控えの金城が「1点は仕方ない。低目へ狙え」と伝令。「あの一言でリラックスでき、意識せずに次打者を三振に取れた」と危機を振り返る。
1回戦ではいいところなしだった打撃でも初回に1打点、八回には中前へ初ヒットを放った。「マシンを近づけてのバッティング練習が効いた」そうで投、打とも上りっぱなしのコンディションに、エースは「次の試合、頑張ります」と力強い一言を残してお立ち台を後にした。
平成元年8月18日の記事(福井新聞より) 先制打西村感激で涙 決勝打青柳「お守り効いた」
【先制打西村感激で涙 決勝打青柳「お守り効いた」】
夏の大会では初めて、福井商は二度目の校歌をアルプススタンドに響かせた。
十回目の挑戦にして勝ち取った2勝目。試合後、みけんにしわを寄せ「苦しかった」とつぶやいた北野監督の一言からは、監督を務めて二十二年目にしてやっと手にした夏の二つ目の白星の重さがひしひしと伝わってきた。
北野監督は試合前、選手には「センターへゴロで返すように狙え」と指示。転がしてエラーを誘う作戦が思い通りになり初回、野阪が出塁した。
念願の2勝目に向けた先取点は西村がたたき出した。チーム一、気が強いといわれる西村。だが三塁まで一気に駆け込み塁上に立った時には、打てた喜びよりも麦倉の48イニング連続無失点を断ち切った感動が強くこみ上げ「柄にもなく涙がにじんできた」と照れ笑い。この後塁上で手を上げて三塁側スタンドにアピールしたが「実はテレビカメラに向かって手を振ったんです」といつものひょうきんさで話す。
西村のタイムリーで一塁から一挙に生還した野阪は「麦倉に一アワ吹かせようと必死で走った」とニッコリ。主将、松倉が前日に「初回に絶対麦倉の記録を破ってみせる」と宣言した通りに展開した。
六回に決勝打を放った青柳は、母親からの願いがこもったお守りをズボンのポケットにしのばせて打席に立った。近岡がホームで憤死した後だっただけに「いやな流れになりそうだったムードを何とか自分の力で変えてやろう」と臨んだ。内角高めのカーブ。「来た」と力いっぱいたたいた。詰まった。フラフラッと上がった球に「ライトフライだ」と観念した青柳。しかしお守りが効いた。ボールは中前にポトリと落ち松倉がホームイン。二塁上で青柳はほほ笑み、ポケットの上からお守りを握り締めた。
試合には勝ったものの、三度のホームタッチアウトに北野監督は「相手の守備は素晴らしい。だが、うちもバッティング、走塁とも課題の残る試合だった」と厳しい。しかし最後には「苦しい試合を勝つことで選手は一戦一戦成長していく」と語り、初めての夏の2勝目の喜びに甘んじない、3回戦への決意を新たにしていた。
平成元年8月20日の記事(福井新聞より) 福商重い2点差 8強遠く
【福商重い2点差 8強遠く 2回無念の本塁憤死 終盤代打攻勢も実らず】
【評】福井商にとって初回に許した1点が重苦しくのしかかった。近岡が好投を続け打線も必死の反撃を試みたが、逆に七回1点を奪われ引き離された。敗因には打てなさすぎたことが挙げられよう。福岡大大濠の右腕木村の前に散発の3安打。活路を見出すことが出来ず、8強入りはならなかった。
立ち上がりの近岡。ストレートで押したが、高めにボールが浮いた。先頭の藤野に左越えの二塁打を打たれ、けん制悪投で無死三塁。続く桜井に中前に運ばれ1点の先行を許した。
反撃したい福井商。最大のヤマ場はすかさず二回に訪れた。先頭の近岡が中堅右へ二塁打、これを中堅手が後ろへそらす間に三塁に進んだ。ここで福井商は強攻策を取ったが松倉が遊ゴロ、三上の二ゴロで近岡が本塁を狙ったがアウト、青柳も三振に切って取られ絶好機を逃した。木村を崩すにはどうしても点に結び付けたい場面だった。
二回の同点機を逸した福井商には初回に許した1点が重い。三回には四球の松本を水町が送り二死二塁としたが野阪が遊ゴロ。七回には松倉が投手強襲安打で出たが三上が二ゴロ併殺打。木村の緩急をつけながら低目を突く投球に、1点を追うあせりからかやや大振りが目立った。
逆に七回、福岡大大濠の木山に投手強襲安打で出塁を許した後二盗され、中島に右前に弾き返されて1点を失った。
福井商は八回に代打攻勢をかけたが不発。九回は代打滝波が左前打したが西村が三ゴロ併殺打、近岡も遊直と堅い守りに阻まれ反撃実らず。福井商としては奪った安打が散発のわずか3本ではどうすることもできなかった。
近岡は好投した。球威はむしろ木村を上回った。ストレートが次第に安定し、カーブも鋭く曲がって八回まで毎回の12奪三振を奪った。しかし初回の1点は二塁走者が大きいリードを取ったことからけん制悪投、7回の1点には二盗が絡むなど福岡大大濠の足を生かした機動力に、わずかなスキを突かれてしまった。
【北野監督】
近岡をはじめ選手たちはみんなよく頑張ってくれた。しかし打てなかったことが痛い。木村投手のボールは内角、外角によくキレ、狙い球を絞りきれなかった。
【松倉主将】
もう少し甲子園にいたかった。実力的に相手が上だったかもしれない。木村投手のボールは手元で伸び打ちづらかった。しかし負けはしたが全力を尽くせて満足している。
平成元年8月20日の記事(福井新聞より) 勝負分けた2回の強攻策
【勝負分けた2回の強攻策】
二回表、福井商。近岡が中堅右を襲い敵失を誘って無死三塁。同点、逆転に結び付けたい絶好機に北野監督の取った策は”強攻”だった。
もちろん頭の中はガンガンなった。スクイズか、打たせるか。「スクイズも考えないわけではなかったが・・・」と試合終了後に話したが、よぎったのは1、2回戦の各打者の巧みな右狙いの成功だった。「この場面でもうまく右へ・・・」打たせに出た。しかし松倉は遊ゴロ、続く左打者三上は二ゴロで近岡がホームを突いたがタッチアウト。強攻策実らず、好機を一気に失った。試合の流れを左右する大きなポイントだった。
これが「打てなかった」という言葉につながった。「木村投手の球がよくキレていたので、ボール気味の球を振らされ引っかけてしまっていた」そして「走塁でのスタートの悪さもあった」とも。
「うまくいかないのが実力の差なんでしょうか」四年連続十回目、春夏あわせて七季連続出場という偉業を成し遂げたが、この七季の間、一度もベスト8に残れなかった。これを北野監督は”厚い壁”と表現した。試合前には口にしなかったが「攻めでも守りでも、まだまだ多くの欠点があった」という。
しかし今大会は「近岡がよく踏ん張り、ナインも一丸となって頑張ってくれた。それが夏の大会では初の2勝に結びついた。点を取ろうというナインの執念も心に響いた」と、大きな手ごたえを感じた。
また新たなチームづくりが始まる。戦後では新記録となる”八季連続出場を目指す”そして”厚い壁を必ず打ち破る”。熱闘のあとの大粒の汗が流れる北野監督の顔にはそう書いてあった。
平成元年8月20日の記事(福井新聞より) 近岡奮投 毎回の12奪三振 3年間のすべて出せた
【近岡奮投 毎回の12奪三振 3年間のすべて出せた】
エース近岡が燃え尽きた。全力を振り絞り、奪った三振は毎回の12個。だが8強入りを決める勝利には届かなかった。
まず振り返ったのが一回裏の投球だった。先頭の藤野にいきなり左越えの二塁打を浴びた。「最初は自分のペースをつかむ意味でもストレートで押して、勢いをつけようと思った」それがものの見事に弾き返された。試合前の思惑とはズレた。リズムが狂った。自らのけん制悪投で三進させるというピンチにつながり、続く桜井にもストレートを中前へ。「ボールが高めに入ってしまった。一番から四番までは振りが鋭く、特に一番の藤野君には注意していたんだが・・・。打たれると、これでもかこれでもかと投げ込んでしまう悪いパターンになっていた」
持ち前の負けん気。それが初回には裏目に出たが、その後は逆にこの気の強さで立ち直った。「ストレートにカーブを織り交ぜた。とくにカーブは切れがよかった」力投は三振の山となって表れた。七回にも1点を奪われたが、投球内容は”好投手”にふさわしい堂々たるものだった。
甲子園に来たのは五回。そのうちベンチ入りは四回。そしてマウンドには昨年春のリリーフ、今年の春夏と三回たった。最後のマウンドとなったこの試合は「三年間の全てが出せた。90点の出来」と胸を張った。エースで四番打者。重責で苦しんだこともあっただろうが「野球をしてきて、とても楽しかった。悔いは全くありません」
わずかなスキを突かれての敗北。甲子園を去る時には四万人の大観衆の大きな拍手が近岡を包んだ。”もう一回も二回も・・・このマンンドで投げさせてやりたかった”とでもいうかのように。近岡は「野球はこれからもずっと続けていきたい」と、この拍手にこたえた。
平成元年8月20日の記事(福井新聞より) 福商ナインひとこと
【福商ナインひとこと】
近岡慶和投手
90点の出来。カーブの切れがよかった。二塁打が打てて打撃は満足。しかし最後のショートライナーが抜けていれば、と悔やまれる。
西村信介遊撃手
やっぱり負けると悔しい。最後の試合でこんな湿った試合をしてしまって近岡に申し訳ない。
三上謙一左翼手
きょうの試合は本当に悔しい。しかし甲子園に来てあんなにいっぱいの観衆の前でプレーできてほんとうに幸せです。
野阪幸示中堅手
3回戦の壁は厚かった。今日の試合は全然だめ。最後の試合で打てなかった。しかし三年間精一杯やった。
青柳幸治一塁手
いろんな手を打ったが最後まで自分たちの野球ができなかった。小学校からの夢の甲子園でプレーでき、福商に入ってよかった。
渡辺和外三塁手
打撃の調子が悪かった。来年へのいい勉強になりました。
水町英治右翼手
打てなくて悔いが残った。考えすぎたのがいけなかったようだ。アッパースイングも今後の課題。
松本貴大二塁手
相手投手にうまく打たされてしまった感じ。打てない球じゃなかったのだが。
滝波拓也外野手
九回に代打で打った安打はカーブだった。思い切り打った。絶対に意地でも打ちたかった。
花山貞徳外野手
みんな1、2回戦よりも力んでいたようだ。来年も絶対に甲子園に来て、今度こそ福岡県のチームを倒したい。
玉森芳享外野手
相手にいいようにやられた感じだ。八回のチャンスに三振をしてしまって悔いが残る。ほんとうに悔しい。
中村繁之内野手
バッティングで期待されて甲子園に来たのに、本番で調子が落ちてしまった。来年こそは絶対に打つ。
金城裕達選手
1回戦でマウンドに立ったが、打たれてもいい、とにかくもう一度投げてみたい。
高島一英選手
悔しい。絶対甲子園にはもう一回来て、今度こそ福岡大大濠に勝ちたい。