平成14年3月30日の記事(福井新聞より) 炎のナイン終盤に地力
【炎のナイン終盤に地力】
【評】無欲で挑んでくる松江北に対し、中盤まで歯切れの悪い攻撃で流れをつかめなかった福井商だが、リードオフマン渡辺の2点三塁打を口火に終盤”福井商らしい”地力を発揮し逃げ切った。
七回、連続四球から稲垣の犠打で、一死二、三塁。この好機に、初回に豪快な右中間三塁打を放った渡辺が、疲れの見えた相手投手の高めの変化球を強打。打球は中堅頭上を越え、2者を迎え入れた。3番斉藤も右中間フェンス直撃の二塁打を放ち、中軸の役割を果たした。下位打線も八回に中谷の左前打、玉村の右中間二塁打で得点。ようやく、本来のつなぐ攻撃を見せつけた。
中盤までは相手投手との厳しい内角の直球と緩い変化球にほんろうされた。初回の無死三塁の好機を逃したのも波に乗れなかった原因だろう。
ちぐはぐな攻撃にも表情を変えず、冷静な投球に終始したエース中谷が、松江北に傾いた流れを引き寄せた。
立ち上がりは高めに球が浮き、二回には出会い頭の本塁打を浴びたが、回を追うごとに安定感が増した。右打者の外角低めにコントロールされた直球は見事だった。スライダーは何度も空を切らせた。七回には3連続三振を奪い、その裏の攻撃を呼び込んだ。
【北野尚文監督】
甲子園の1勝はやはり難しい。松江北は予想以上に勢いがあった。うちとしては中途半端な打撃で残塁も多いという欠点が出た。初回に点が取れなかったことで焦りもあった。中谷は本当にいい投球をしてくれた。
【玉村拓史主将】
思い通りにいかなかった。勝てたことは100点だが、内容は30点。松江北の勢いに押されてしまった。中谷の(七回の)3者連続三振で盛り上がり、いい攻撃につながった。次の試合は気持ちを切り替えて挑みたい。
平成14年3月30日の記事(福井新聞より) 中谷快投 雪辱の10K
【中谷快投 雪辱の10K】
「悪夢は断ち切った」。ヒーローインタビューを受ける中谷の目は少し充血していた。昨春、2試合連続KOされた屈辱のマウンド。1年ぶりに雪辱を誓って戻ってきたエースは、どのナインよりも冷静に、そして気合十分に福井商の勝利を呼び込んだ。
いくら「リベンジするために、冬場に精神面を鍛えた」(中谷)といっても、不安はあった。24日の練習では、指のかかりが悪く思うような球が投げられなかった。「昨年の嫌な思いは消えた」といいつつも、表情は硬かった。付きっきりの捕手・岡本広も「あいつは表面に出さないから」と心配していた。
だが、いざマウンドに立てばどうだ。二回に先制パンチを受けたが、「あれで気合が入った」と闘志に火がついた。味方の同点で迎えた五回は、最初の打者に突然の3連続ボールとなったが、決して乱調ではなかった。「集中力を高めていた。球に気合を乗せていた」。鋭く伸びた直球で三振。次の打者も3ボールの後に直球3つで空を切らせた。
エンジン全開となった中谷は七回にも3連続三振。打のヒーロー渡辺が「あの3者連続三振が効いた」と振り返るように、マウンド上の躍動感あふれる中谷の姿は福井商ナインを奮起させ、松江北の反撃の機会を奪った。
九回、あと1人で完投という場面で駒田と交代。「監督の指示なんで」と話したが、負けず嫌いの中谷は勝利に立ち向かい、堂々とリベンジを果たした。
「あともう一戦、昨年の2回戦の借りを返す」(中谷)。完投は好投手を擁す津田学園(三重)戦にとっておけばいい。
平成14年3月30日の記事(福井新聞より) スタンドの”監督”西村応援団長
【スタンドの”監督”西村応援団長】
大会には欠かさず駆けつけ、”北野・福井商”を縁の下で支え続けた野球部の応援団長、西村敏明(60)にとっても、この1回戦が北野監督と同じ甲子園50試合目。苦戦した末の逆転勝利に「これぞ甲子園。苦しんだが、その分ナインの成長を見ることができた」と喜んだ。
福井商野球部にほれ込んで半世紀近く。まだ同校が県内で3、4番手だった1966年(昭和41年)に、ほかの熱心なファン2人と応援団「福井五徳会」を結成し、声援を送り続けてきた。練習を手伝い、遠征の運転手役を務めたこともある。北野監督からは「ニシさん」と呼ばれ、絶大な信頼を得ている。
座席に片足をかけ、メガホンを手に声を絞り出す姿は、まさにスタンドの”監督”。この日も、スタンドの生徒と一体となって声を出す傍ら、要所では「この回、この回」などとグラウンドの選手にハッパをかけた。
何度足を運んでも、甲子園は新鮮に感じるという。この日も「少しでも早く着いて甲子園の雰囲気を味わいたい」とバスではなく、午前四時すぎ福井発の特急で大阪入り。「毎回、場内のアナウンスを聞くたびにぞくぞくする」と話す。
78年のセンバツ準優勝があるだけに、夢はもちろん全国制覇。甲子園経験のある選手が多い分、西村さんのこのチームへの期待は大きい。「1戦ごとに力をつけていった準優勝組を思い出す。監督もあと何年もできないし、僕ももういい年。この試合で自信をつけた選手の姿をまた見ることができそうで、次の試合も楽しみ」とスタンドを後にした。
平成14年4月2日の記事(福井新聞より) 戦うたび強く
【戦うたび強く】
【評】津田学園の好投手・多田を気落ちさせるには十分な1発だった。初回の4番赤土の豪快な満塁本塁打を口火に、福井商打線が火を噴いた。5本の長打を含む12安打で中押し、だめ押し点を奪い、貫禄の勝利。24年ぶりのベスト8入りを果たした。
初回、今大会絶好調の1番渡辺が、多田の自慢の直球を中前にはじき返し、岡本卓の内野安打、斉藤の四球で無死満塁とした。ここで1回戦無安打だった4番赤土が、初球の直球を強振、左中間スタンドに突き刺した。
この4点が1回戦で硬さの見られた打線に勢いをつけた。二回二死一塁から斉藤が中越え二塁打、赤土も強烈な左越え二塁打で続き、2点を追加。多田の速球に対し、バックスイングを小さくした打撃が光った。
三回以降はやや淡白な打撃で追加点を奪えず、逆に六回には守備の乱れで2点を返されたが、その裏には足で揺さぶりを掛け、赤土の犠飛で貴重な追加点。八回には、赤土がこの日2本目の本塁打を放った。
エース中谷は、1回戦ほど調子はよくなかったが、捕手・岡本広の内角高めの直球を効果的に使う配球で、津田学園打線に17の内野ゴロを築かせた。
【北野尚文監督】
(久しぶりのベスト8に)長かった・・・。赤土は一発があるので期待していたが、びっくりした。中谷は疲れから腕が下がりカーブがやや悪かったが、決め球はよかった。ゆっくり調整して準々決勝に臨みたい。
【玉村拓史主将】
初回、渡辺がいつも通りに打ってくれて、岡本卓、斉藤、赤土が続いてくれた。あれで波に乗った。1回戦の反省点をすべてクリアできたと思う。これでベスト8勝てばベスト4。次も全力を出し切りたい。
平成14年4月2日の記事(福井新聞より) 目覚めた主砲
【目覚めた主砲】
眠れる大砲が目覚めた。1発目は、観客の度肝を抜く痛烈なライナー。2発目は観客が注目する中、高々とレフトスタンドに運んだ。福井商の4番赤土は、満面の笑みを浮かべ、2度もダイヤモンドをゆっくり一周した。
豪快で極端なアッパースイング。昨秋までは「毎打席ホームランを狙う」一発屋だった。打率はチームで最も低い2割7分3厘。だが、いくら三振や凡打を重ねても北野監督は「当たれば大きいのが魅力」と4番に置いた。
北信越大会も中軸らしい活躍はなかったが、甲子園出場が決まったとき意識が変わった。「チームバッティングに徹する」。バックスイングを小さくし、レベルスイングを心掛けた。
だが甲子園に来ても1回戦は無安打。だからこの試合では、好投手・多田の速球に合わせ「テークバックを小さくし、グリップの位置を変える」ことを考えた。すべては、好きな本塁打よりも「ヒットを打つため」「チームのため」だった。初回の満塁本塁打も、実はヒット狙いで「当たったときは二塁打だと思った」。
力で運んだ本塁打。冬場の筋力トレーニングの成果が現れた。もともとけた外れのパワーを持つ赤土。大会前には背筋力は250キロにもなっていた。八回の「打った瞬間分かった」(赤土)本塁打も、これが源だ。
満塁本塁打、1試合2本塁打、1試合7打点と記録ずくめ。これで甲子園で注目される打者になった。それでも赤土は「ヒットを打ってチームの勝利に結びつけるのが準々決勝の目標」とあくまでもチーム第一に考えている。