第45回選抜高校野球大会

昭和48年3月28日の記事(毎日新聞より) 闘志たぎらせ 福商ナイン、堂々の行進

【闘志たぎらせ 福商ナイン、堂々の行進】
この日は朝から絶好の「選抜日和」開会式は午前9時、花火のさく裂音と高らかなファンファーレで始まった。行進曲「虹をわたって」を演奏する音楽隊に続き南のチームから入場。福商ナインは京都商業に次いで19番目に登場。「福井商業、三回目の出場」のアナウンスと同時に「福井商高」と染め抜いた校名旗が風船とともに舞い上がり、大空に吸い込まれた。スタンドの大観衆から盛大な拍手。深紅のセンバツ旗をもった戸板主将を先頭に、ナイン14人が胸を張り、はつらつと行進。激しい練習で流した汗と泥の跡が残るユニホームがグランドに映えた。左肩の炎のマークがまるで燃えるよう。足並みをきっちりそろえ、黒土に記念のスパイク跡を刻みながらグランドを一周。
そして、戸板主将ら出場30校の代表の手でセンターポールに国旗、大会旗が掲げられると、グラウンド中央を仕掛花火が走った。白煙の中から「福井商高」などの垂れ幕が次々に下がって式は最高潮、ナインの顔が一段と引き締まった。

【まるで夢のよう】
式のあと昨年の開会式にも出場した戸板主将らは「二度目だけど初めての時と感激は変わらない」といい、野村選手ら「初出場」組の四人は「あこがれてきたとおりの素晴らしさで、まるで夢のようでした。開会式の感激は一生忘れないでしょう」と興奮気味だった。
午後は「打倒、松江商」を合言葉に、甲子園球場近くの西宮厚生年金スポーツセンターのグラウンドで最後の仕上げ練習に打ち込んだ。

昭和48年3月28日の記事(毎日新聞より) 強敵何するものぞ 自信満々の福商ナイン

【強敵何するものぞ 自信満々の福商ナイン】
初戦を飾ってみせるぞ、今日28日第3試合で松江商と対戦する福商ナインは、勝利をたぎらせている。戦力の総仕上げはすみ、あとなナイン一丸となってぶるかるだけ。「強敵何するものぞ」と意気あがる選手一人一人に第一戦への抱負を聞いてみた。
【水野政美投手】松江商の中林投手も僕と同じ左腕で、ファイトが出る。松江商のバッターはインコースに強いと聞いているが、カーブ、直球をうまく配合して押え込みたい。わがチームの攻撃力は相手に劣らない。二打席目ごろから猛打を爆発させるでしょう。
【中村甚吉捕手】水野投手の調子は日に日によくなり、今は絶好調。タマを受ける僕としても心強い。松江商は小柄なチームだがコツコツ打つと聞いている。バッテリー、内外野の守備を万全にしチームワークのよさを発揮したい。今年は二年目なので思い切ってやれそうだ。
【近藤啓一一塁手】昨年のセンバツ大会は自分一人がミスをした感じだったが、今年こそミスを出さない。打力は甲子園に来て目に見えて調子づいた。中林投手はカーブがいいと聞いているが、同じ高校生なので打てないことはない。とにかく思いきりやる。
【中野正之二塁手】一番打者だからボールにくいついてでも塁に出たい。塁に出ると足を生かして相手をかき回してやる。打撃はセンター方向を主体にしたい。昨年一回戦の対高知戦の最終回にサヨナラ安打を放ったあの感激をもう一度味わいたい。
【野村育生三塁手】初めての甲子園出場なのであがるかもしれないが、自分の力を出し切り実力通りの試合をしたい。中林投手からは少なくとも一安打は打ちたい。父も、こんどわがチームに加わる弟も、スタンドで応援してくれるので期待にそえるようがんばりたい。
【戸板遊撃手】中林投手の得意とするカーブを打ちくずし第一戦を飾りたい気持ちでいっぱいだ。これまで泥にまみれて猛練習に励んできた成果を出しきり、悔いのない試合をしたい。選手全員、調子が上々でファイトも松江商には負けない。主将としても試合後、ぜひ勝利の校歌を聞きたいものだ。
【島田一成左翼手】ことしは二回目の出場なので昨年以上の成績を残したい。松江商は投手がいいと聞いているが、これまでの練習で鍛えた力を発揮し、四番打者らしく相手投手を打ちつぶすつもりだ。三回戦まで勝ち抜きベスト8へ進出するのが念願だ。
【長谷川伸中堅手】大観衆に日ごろの練習の成果を見せたい。守備は自信があるのでレフトやライトをカバーし大活躍をする覚悟だ。カーブ打ちの練習は何百ぺんもやっているので中林投手はこわくない。いい試合をしてみせます。
【鰐淵正則右翼手】甲子園へ来てからバッティングは上向きなので、ヒット一本は打てる。チャンスは必ずものにしたい。水野投手のバックアップをして強いといわれる松江商をノックアウトしてやる。やるだけのことはやってきたのであとはベストを尽くすだけ。早く中林投手の球が打ちたい。

昭和48年3月29日の記事(毎日新聞より) 最終回、逆転成らず 福商健闘に惜しみない拍手

【最終回、逆転成らず 福商健闘に惜しみない拍手】
福商応援が最初にわき立ったのは二回裏。一回表に先制点を許した福商は、一死後、今大会の出場選手中、最高打率をマークしている五番中村がみごとライトへチーム初安打。続く、「初出場」の鰐淵も三遊間を破り一死一、二塁。野村のバントで二、三塁に進み絶好の反撃チャンス。だが松江商・中林投手の落着いたピッチングで、近藤は三振に打ち取られた。
立上がり不調だった福商の水野投手は二回から調子を取戻し、得意のストレート、アウトシュートを決めて中林と投げくらべ。だが、六回表、二安打を浴びさらに1点を献上、そのころから時折り雨がはげしくなった。
ラッキーセブンに福商は反撃チャンスを抑え、戸板が主将の面目をみせライト前に初ヒット。盗塁に成功したあと中村がレフト前へ二本目のヒットを放ち一死一、三塁。応援席はタイコの連打「ええぞ、ええぞ」の歓声でわいた。だが残念、後続打者は凡退。
どたん場の最終回裏、長谷川(伸)が三塁線へバント安打、戸板の強烈な二塁打で三塁へ進撃し、無死二、三塁。「一打同点」に応援団は総立ち。降りしきる雨も吹き飛ばすように「ガンバレー」を連発した。島田の内野ゴロのあと当たっている中村がバッターボックスに。シャープな振りでショートへ深い強襲ゴロ。一塁へ送球の間に、戸板が本塁へ突っ込んだ。だが、瞬時の差でアウト。応援団はあきらめきれない様子でしばしばぼう然としていた。
試合のあと戸板主将は顔を真っ赤にほてらせて「相手は予想以上の投手だった」とポツリ。水野投手は「別に上がりはしなかったが立上がり不調というクセがまた出た。あとはまあまあだったけど、全体としては五十点以下の出来だ」ときびしい表情で自己批判。一人気をはいた感じの中村選手は「初安打の気持ちは何ともいえなかったが、負けたのはくやしい。水野君のできは決して悪くなかった」とかばう。島田、野村ら主力選手たちも「コースに鋭く決まる球が打てなかった」とくやしそう。黙り込んで涙を流す選手もいた。甲子園球場をあとにしたナインに北野監督は「こんどは夏だ」と勇気づける。興奮がさめたナインは「こんどこそやってやる」と再び闘志をよみがえらせた。

【北野監督】
何よりもチャンスがものにできなかったのが残念だ。打線は試合前、少し調子が悪いと感じたが、調子よくても相手の中林投手を打ち込むのはかなりむずかしいだろう。ボールの回転がよくカーブの切れもいい。あれほどの左投手はあまりいない。どんな投手でも打てるような強力打線になるよう練習をやり直したい。

【戸板主将】
とにかく予想以上の投手だった。カーブとシュートがさえ、直球と変化球のコンビネーションもうまい。あんな投手の球を打つのは初めて。それに加えわがチームの打線の調子がいま一つだった。こんどは夏の甲子園をめざしてがんばります。