昭和49年11月4日の記事(福井新聞より) 福商準決勝へ 強豪天理を圧倒
【福商準決勝へ 強豪天理を圧倒】
【評】福商は三振10個を奪う前側のすばらしい好投、数少ないチャンスを生かしたうまい攻めで、近畿の強豪、天理に快勝。準決勝へコマを進めた。
三回まで三人ずつで片付けられていた福商は四回、無死から木本が三塁前へセーフティーバント(内野安打)を決めて初めて出塁。盗塁と北野のバントで三塁へ進んだ。ここで野村がスクイズバントを成功させ先制の1点。
先取点で優位に立った福商は、六回にも一死後、遊ゴロ失で生きた左近を置き、木本が右中間へ会心の二塁打を放って1点を追加。さらに北野、野村が安打をたたみかけて、この回計2点を奪い、ほぼ試合を決定づけた。
前側は二回裏、天理のバント攻勢で、無死から3連続内野安打を決められ、満塁と苦境に立った。しかし、このピンチを2連続三振と遊ゴロで切り抜けてからは、すっかり調子の波に乗った。低目を突くストレートがよく伸び三回以降は六回に内野安打、七回に四球の、いずれも二死からの走者を出しただけ。ほぼ完ぺきに近い投球で、伝統的に強打が売り物の天理打線を見事に抑え込んだ。
【ただいま48回無失点】
天理を完封した福商のエース前側投手は福井県大会の準決勝、対藤島戦以来北信越大会を通じて48イニング無失点の快投を続けている。167センチの小柄な同投手は、中学時代遊撃手。高校では内野手とバッティング投手を兼ねていた。だが新チームになってからは正投手の座に着いた。
「僕は打たせて取るタイプです。球威があるわけではないが、球が打者の手元で変化するので打ちにくいんでしょう」と語る。北野監督の指示で上手から下手投げに切り替えたのが成功のきっかけで、それまでは制球が悪かったそうだ。「無失点記録よりただ一生懸命投げているだけです。これからもがんばり甲子園で思い切り投げたい」と決意のほどを語った。
昭和49年11月5日の記事(福井新聞より) 福商、札幌商破り決勝へ
【福商、札幌商破り決勝へ 前側、3安打完封、打線も好調 無失点記録57と伸ばす】
【評】福井商が前側の快投とスキのない打線で決勝へ進出した。
連続無失点記録を続ける前側は、一回死球と失策で無死二塁。続く山田の三塁バント安打で二塁走者が本塁をついたが刺し、ピンチを脱した。三回も先頭打者に三塁打を浴びたが、冷静な投球で切り抜け、その後は全くつけ込むスキを与えず連続無失点記録を57回と伸ばした。丁寧にコースをつき球が打者の手元で微妙に変化するため打たれないのだ。
福井商は二回、一死後安打の山本が二盗すると藤井が中前適時打して先制した。六回は中前打の前側を送ったあと藤井の三前バント安打が出て一死一、三塁。藤井が二盗したあと山崎のスクイズで前側に続き藤井も好走してダメ押し点を奪った。
昭和49年11月5日の記事(福井新聞より) 神宮に”福井球児あり” 県勢2年連続の決勝進出
【神宮に”福井球児あり” 県勢2年連続の決勝進出】
北信越大会で波に乗った福商は明治神宮に乗り込んでからも快調そのもの。見事シャットアウトで決勝進出を果たしたナインは、昨年この大会で優勝を果たした若狭に続けとばかり大いに発奮している。
福商の快進撃はエースの前側の好投と、どこからでも当たりが出る強力打線ががっちり支えている。特に前側はこの試合で、連続無失点記録を57イニングと伸ばした。今春、コントロールをつけるために思い切って下手投げに変えたのが成功したのだ。シュート、カーブ、そして絶妙のコントロールこれだけそろった前側投手は北信越地区でその力を披露したばかりか、全国の強豪を相手にしても十分威力を発揮することを示した。
さらに、一発長打こそないがチャンスを確実にものにする打線もいかにも福商らしい。大会前に北野監督は「うちには目玉選手がいない。それだけに全員一丸となってぶつかっていかねばならない」と言った。この言葉通り、2回戦で上位打線が活躍したかと思えば、準決勝では下位打線が活躍して勝ちをさらってきた。
野村主将は「ここまで来たからには当然優勝をねらっていきたい」ときっぱりと言う。これまで北信越地区では常に上位にあった本県チームも全国大会では1回戦チームとさえ言われてきた。しかし、昨年若狭が優勝。そして今年も福商が決勝進出を果たし、すっかり汚名をばん回した。野村主将の言葉にも全く臆したところは感じられない。
さあ決勝だ。相手は同じく雪国の日大山形。東北随一の好投手金子投手をようしている。投手戦が予想されるだけにちょっとしたミスが試合を左右しそう。福商にとっては何よりもがっちり守ることが必要だ。そして得意のバントや足を生かした攻撃で点を取らねばならない。日大山形は大型チームにありがちな荒い攻撃で向かってくるものと見られ、ち密な福商野球との対戦は大いに興味が持たれる。
昭和49年11月7日の記事(福井新聞より) 福商優勝 日大山形を逆転 2年連続本県が制覇
【福商優勝 日大山形を逆転 2年連続本県が制覇】
【評】福商が日大山形の守備の乱れにつけ込んで逆転した。福商は七回一死から左前打した山本が二塁を欲張って刺された。四回にも一死一塁の走者が二ゴロで三進をねらって併殺されており、足におぼれたまずい攻めが目立った。だが失策がこんな不利な試合の流れをがらりと変えた。
二死から藤井が遊ゴロ失で生き二盗。山田の中超三塁打で同点。さらに中盤ミスに乗じて山田も一気にホームを踏んだ。
日大山形は四回、山口、生駒の長短打で鮮やかに先制した。福商の前側にとっては、県大会から通算して61イニング目の失点である。しかし日大山形は、この後の無死三塁を強攻して生かせず、八、九回の同点機も前側にかわされてしまった。エース金子が好投していただけに、七回の失策は悔やまれる。
昭和49年11月7日の記事福井新聞より) 「やったぁ」喜びの母校”大試合に強い”の本領 ひっきりなしに祝電、電話
【「やったぁ」喜びの母校”大試合に強い”の本領 ひっきりなしに祝電、電話】
「日大山形に逆転優勝」-福商に喜びの第一報が飛び込んだのは試合終了直前の午後一時過ぎ。ファンからの電話だった。ちょうど校内は昼食どき。早速、校内放送でニュースが流され、各教室から「うわーっ」と拍手と歓声が上がった。
「福商の優勝で、昨年の若狭高に続いて県勢は二年連続全国制覇した。これで福商と本県の名は、遠く東日本に知れわたった」県高野連の理事長で一足先に帰福した森永忠雄福商教諭の声も浮かれがち。ラジオ、テレビで県内に福商優勝のニュースが流れると、学校に祝いの電話や電報が相次いだ。
それにしても福商の戦いぶりは見事だった。チーム結成まもなく開かれた秋の県高校野球大会では優勝候補の一角に挙げられたが、チーム力にはまだまだ不安があった。事実、福井、敦賀、藤島の各チームに逆転勝ちや、延長戦勝ちなどの苦戦を続けた。それが決勝の三国戦で前側投手が完封勝ちしてから、見違える程、チーム力が整ってきた。北信越地区大会では、前側投手が無失点で乗り切り、不調だった打線も野村主将を中心に火を噴いた。
「大試合に強い福商」の本領は東京の神宮球場でさらに発揮された。前チームが練習試合で大敗した天理に3-0と完勝。今秋の北海道地区大会で優勝した札幌商にも、危なげなく3-0と勝ち、決勝へ進出。決勝では相手のミスに乗じたうまい試合運びで逆転勝ちを演じた。
福商の快挙の陰には、一戦一戦の勝利で身につけたゆるぎない自信と、大事な試合で全選手がその力を十分出し切る気力があったといっていい。この自信とチームワークがある限り、福商野球の伝統はますます強く築かれていくことだろう。
【北野監督】
これまで連続無失点記録が続いていただけに1点を先行された時は、前側をはじめナインにとってはショックだったようだ。しかし、私は1点ぐらいは、はね返せると思っていた。ナインも終始ファイトを持ってよく粘ったので、一気に逆転出来た。相手投手は荒れ気味だったため、ポイントを絞れず、前半は攻めがややちぐはぐになった。でも、後半はよい当たりが出て、勝てるムードになった。全員がよくやってくれたが、投の前側と打の山本の活躍を特にほめてやりたい。
【前側投手】
調子はことさらよくなかった。無意識のうちに連続無失点記録を伸ばそうと意識していたのが、61イニング目に1点を取られた時、逆に肩の荷が下りた思いだった。これ以降、硬さがほぐれた。日大山形のバッティングは非常にシャープだった。少しでも甘いコースを投げると、必ずねらってきたので気が抜けなかった。